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書 名 世界の果てのこどもたち
著 者 中脇初枝
出版社 講談社
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戦後70年にあたるからでしょうか。今年は、戦争の記憶を活字に刻み、戦後を振り返ろうとする本や映画が多いように思えます。
「世界の果てのこどもたち」も今年6月に出版された本です。
珠子は、家族とともに満州に渡って満州開拓団に参加、開拓団村に暮らすことになった珠子(たまこ)。珠子がその開拓団村に暮らしていた朝鮮人の美子(ミジャ)。横浜で裕福な家庭に育ち、父とともに満州を訪れた茉莉(まり)。ともに国民学校一年生であることは同じでも、それまでまったく違った環境で育ってきた三人の少女が戦時中の満州で出会い、時代の奔流によって離れ離れになっていきます。戦争が終わり、日本に帰国する茉莉、朝鮮での生活基盤を既に失っていた家族とともに日本に渡る美子、そして、母親から引き離され、中国に取り残される珠子。
愛情を注いでくれる中国人養親との暮らしの中でいつのまにか日本語さえ忘れてゆく珠子。横浜大空襲で肉親を失い施設で暮らすこととなる茉莉。38度線による祖国分断に翻弄される美子。物語は、中国文化大革命の時代を経て、中国残留孤児の肉親捜しが始まる1980年代へと引き継がれていきます。
戦争の時代は、少女三人に互いの絆の深い記憶を刻んでおきながら、彼女たちの肉親やふるさとを奪い、彼女たちのアイデンティティまで根こそぎ揺るがしながら、三人を置き去りにしていきます。
少女たちを踏みにじっていく戦争の時代には、少しの容赦もありませんが、物語の最後に、茉莉が語る言葉に救いを感じます。
いくらみじめで不幸な目に遭ってもね、享けた優しさがあれば、それをおぼえていれば、その優しさを頼りに生きていけるのね。それでその優しさを人に贈ることもできる。
この物語は、40年もの間、少女三人を「果て」に追いやり続けた東アジア(中国・朝鮮・日本)の時代を語りながら、そうした時代の流れを超えてつながり続ける人の絆のかけがえなさを、読む者の胸に訴えてきます。
若い人に是非とも読んでほしい、強く薦めたい一冊です。
(我孫子市平和事業推進市民会議 恒)