5月21日、オバマ大統領が現職米国大統領として初めて、被爆地広島を訪れました。
米国内世論を意識し、原爆投下の是非には触れない訪問であったとはいえ、被爆71年目の米国大統領広島訪問は、「歴史的訪問」として大きな反響をもって受け止められています。
オバマ大統領は2009年4月のプラハでの演説で、核廃絶への具体的な目標を示したとされますが、このたびの広島記念公園での演説では以下のように語りました。
We may not realize this goal in my
lifetime. But persistent effort can roll back the possibility of catastrophe.
We can chart a course that leads to the destruction of these stockpiles.
この目標(核なき世界)は、私が生きている間に達せられないかもしれません。しかし、私たちは、根気強い努力で悲劇の可能性を減らすことはできるのです。(核兵器の)大量備蓄を廃絶する道筋をつけることが、私たちにはできるのです。
平和記念公園でのオバマ大統領献花の場に列席された被爆者代表の方々の中に森重昭さん(1937年生まれ)というアマチュア歴史家の方がおられました。森さんは、自らも被爆者でありながら、私財を投じて、広島で原爆の犠牲となった米兵捕虜12名全員の遺族を探し出し、家族が原爆の犠牲となった事実を伝えてきました。オバマ大統領が献花の後、抱擁を交わした相手の方が森重昭さんでした。
オバマ大統領演説の冒頭に以下のようなくだりがあります。
Why do we come to this place, to
Hiroshima? We come to ponder a terrible
force unleashed in a not so distant past. We come to mourn the dead, including
over 100,000 in Japanese men, women and children; thousands of Koreans; a dozen
Americans held prisoner. Their souls speak to us. They ask us to look inward,
to take stock of who we are and what we might become.
私たちは、何のためにこの地、広島をおとずれるのか。私たちは、そう遠くはない過去に解き放たれてしまった恐ろしい(原爆の)力に思いを馳せるためにこの地を訪れるのです。10万人以上の日本人の男女、子どもたち、数千の朝鮮人、そして十数人の米国人捕虜を悼むために来るのです。彼らの魂は、私たちに語りかけます。彼らは、私たちが何者であるのか、何をなしうるのかを私たち自身に問いかけるよう求めています。
オバマ大統領は演説の中で、被爆者の魂は、核廃絶という人類史上かつてない目標に、私たちがどのように向かっていくのか、それを問うているのだと語ります。
And yet, the war grew out of the
same base instinct for domination or conquest that had caused conflicts among
the simplest tribes; an old pattern amplified by new capabilities and without
new constraints.
しかしながら戦争は、もっとも単純な部族間の紛争と同じ支配や征服の本能から生まれながら、新しい(原爆の)力によって昔からのパターンが増幅され、そしてついには歯止めを失ってしまったのです。
Science allows us to communicate
across the seas and fly above the clouds; to cure disease and understand the
cosmos. But those same discoveries can be turned into ever-more efficient
killing machines. The wars of the modern age teach this truth. Hiroshima
teaches this truth.
科学によって、私たちは海を越えてコミュニケーションし、雲の上を飛行し、病気を治し、宇宙を知ることができるようになりました。しかし、同じこれらの発見が、恐るべき殺戮の道具をもたらしているのです。現代の戦争はこの真実を私たちに突きつけています。広島がそのことを教えてくれているのです。
How often does material advancement
or social innovation blind us to this truth. How easily we learn to justify
violence in the name of some higher cause. Every great religion promises a
pathway to love and peace and righteousness, and yet no religion has been
spared from believers who have claimed their faith as a license to kill.
物質的な進歩、社会的な革新の中で、いくたび私たちはこのことを見失ってきたのでしょうか。いかに安易に私たちは、より高い大義とされるものを理由に暴力を正当化してきたでしょうか。あらゆる偉大な宗教が愛、平和、公正への導きを約束しながら、信仰をもって殺戮を正当化する信徒から免れていないのです。
But staying true to that story is
worth the effort. It is an ideal to be strived for; an ideal that extends
across continents, and across oceans. The irreducible worth of every person,
the insistence that every life is precious; the radical and necessary notion
that we are part of a single human family - that is the story that we all must
tell.
しかしこの物語に忠実であり続けることは、努力に値することなのです。それは、大陸を横切り、海を越えて広げていくべき理想なのです。すべての人の譲ることのできない価値、すべての命は尊いという信念、私たちはみな人類という家族の一員なのだという根本的でなくてはならない認識、これらがみな、私たちが伝えていかなければならない物語なのです。
任期が残りわずかとなったオバマ大統領は、演説を終えて広島を去りました。
核廃絶という目標にどのように向き合っていくのか、そのことが私たちみなに問われています。
オバマ大統領の広島演説の全文については、以下のサイトなどを参照ください。